招鬼猫物語

招鬼猫物語第28話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第28話

十数匹のネズミが「キィキィキィ」と鳴き、栄叡が振る箒(ほうき)のようなものを避け、走り回っています。

時々、何匹かが鑑真が座している藁の中に潜りこもうとしたり、壁を器用に登って梁の上を行ったり来たりしています。

弟子達はネズミに噛まれることを恐れ、栄叡の後ろに隠れ鑑真を守るどころではありません。

そのような中、鑑真と普照が座り、お経を唱え始めました。

それを聴き、我に返った弟子達が一人、また一人と鑑真の後に座り、心を落ち着かせ、お経を唱え始めました。

どのくらい時間が経ったのでしょうか。天井近くに開いた窓の外が明るくなり、牢獄の中も明るくなってきました。

あれだけ走り回っていたネズミもいなくなっています。ただ、お経の声は途切れることなく響いています。

突然、「ガチャン」と牢獄の扉が開く音がしました。

お経を唱えていた弟子たちが一斉に振り返ります。そこには官服を着た一人の役人が立っていました。

役人が「鑑真様、もう二度と日本に行くのはお止めてください」と言います。

そして鑑真の手を取り立ち上がらせると、牢の外へ連れて行きました。

取り残された栄叡、普照、弟子達が「鑑真さま」と嗚咽しながら牢の外を見続けています。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第27話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第27話

残された牢番は棒で牢を叩きながら、強い口調で「お経を唱えるのを止めないともっとひどい目に遭うぞ」と言っています。

しかし、鑑真達はそこに牢番がいないかのように微動だにせずお経を唱え続けています。

牢番の詰め所に戻っていた牢番が手に薄汚れた竹籠を持って戻ってきました。

残っていた牢番は今から始まる光景が目に浮かぶのか、ニヤニヤしながら戻ってきた牢番に竹籠を牢の中に置けと目配せをしています。

薄汚れた竹籠が牢の中に置かれると、待っていた牢番が棒で鑑真を取り囲んでいる弟子たちの前に勢いよく押し入れました。

すると竹籠が勢いで横向きになり蓋が開き、中から小さな物体が幾つも放り出され動き回り始めます。

それを見た牢番達は笑いながら「嚙まれるなよ」と言って何処かへ行ってしまいます。

お経を唱える声が止まり、若い弟子たちが「ネズミだ、ネズミだ」と次々に叫び声を上げ始めました。

栄叡が「敷いてある藁を束ねろ」と弟子たちに命じ、弟子たちが慌てて藁を束ね、箒(ほうき)のようなものを作り上げました。

そして、それを手に持った栄叡はネズミに向かって振り始めました。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第26話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第26話

その頃、勅令を破り投獄された鑑真一行と栄叡、普照は、冷たい石畳みに敷かれた湿った藁の上に座っていました。

投獄されている牢獄の天井近くには明かり窓があり、僅かに月の光が入り、各々の顔を青白く浮かび上がらせています。

鑑真は目を閉じ、微動だにせずお経を黙読しているようです。

夜が更けるにつれ皆の吐く息は白く、手を揉む音、手に息を吹きかける音が多くなってきました。

寒さに我慢できなくなった栄叡が「鑑真さまを中心に体を寄せ合い、暖をとろう」と小さな声で皆々に言います。

鑑真の周りを弟子、栄叡、普照たちが取り囲み、体を密着させ、各々がお経を唱え始めます。

しばらくすると黙読していた声が牢獄の外に響き渡るほどになっています。

牢番二人がお経を唱えるのを止めさようとやって来ました。そこには暗闇に青白く浮き上がり、湯気が立ち昇る鑑真達の姿がありました。

牢番が「おい、お経を止めろ」と持っていた棒で弟子たちを突きながら注意しました。突かれた弟子たちは少し呻きながらもお経を唱え続けています。

唱える事を止めない鑑真達に、業を煮やした牢番の一人が「あれを持ってくるか」と言って牢番の詰め所に戻って行きました。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第25話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第25話

水を飲み、一息ついた男達が口々に「秀傑、窯の温度が下がるまで時間があるから酒を持って来い」と言い始めました。

秀傑は「どうする」という表情で父親の周に目を向けています。

それに気づいた周は「次の仕事まで少し時間はあるから酒を飲んででもいいぞ」と言います。

それを聞いた男達が「親方は話が分かる方だ、早く酒を持って来い」、「早くしろ」と促します。

秀傑は「ちぇっ、一番下っ端だからこき使いやがって」と愚痴を言いながら腕に抱いていたスズを地面に下ろし、酒甕を取りに走り始めました。

スズは初めて来た場所に下ろされてしまい、どうしたらいいか分からず緊張した様子で男達をじっと見ています。

そして酒甕を取りに走る秀傑を追っていた男達の視線が、今度はスズに集まります。

一人の男が「親方大変だ、猫が敷地の中にいますぜ」と大声を出しました。他の男達も早く捕まえないと大変だと口々に言っています。

すると、親方の周が「あの猫は賢い猫だ、乾燥させている瓦を倒したりはしないから心配するな」と言いながら、男達の所に近づき腰を下ろしました。

 


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第24話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第24話

遠くからは一つに見えていた炎の光は近づいてみると、小高い山の斜面に沿って所々に開いた穴から炎が出ていたのです。

周と秀傑、スズは斜面の一番下に開いている穴の前まで来ました。その穴は屈むと人間が入れるぐらいの大きさがあり、近くには大量の薪が積んであります。

顔を真っ赤にし、体中から大粒の汗を噴出させている男達がその薪をどんどん穴に放り込んでいます。

すると斜面に沿って開いた穴から薪が放り込まれるたびに勢いよく炎が立ち上がります。

秀傑が「山が燃えているようで怖いのか、これは穴窯という焼き物を焼く窯だよ」とスズに話しかけます。

スズにはその光景が宇宙へ一直線に駆け上がって行く龍のように見え、目を丸くして微動だにせず見ていたのです。

火口をのぞき込んでいた周が「火を止めるぞ」と大きな声で言っています。

男達が薪を投げ入れるのを止め、薪が積んである近くに置いてある水甕の水をぐびぐびと飲み、思い思いの場所にぐったりと腰を下ろしました。

開いている穴々から噴き出していた炎は治まり、オレンジ色をした窯の中に幾十も並んだ白く浮き上がるモノが見えてきました。


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