招鬼猫物語

招鬼猫物語第6話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第6話

船倉へ通じる入口は真っ暗で階段は数段先までしか見えず、甲板にポッカリ空いた穴のように見えます。スズは尻尾を立て、大きな目の瞳をさらに大きくして真っ暗な船倉へと下りていきます。

船倉には航海に必要な食糧、遣唐使、鑑真一行が日本に持ち帰る様々な物が置いてあります。

船倉へ下りたスズは鶏が飼われている竹籠、食料の入った木箱、たくさん並んだ水甕の前を通り過ぎ奥へと進みます。

船の中央から船尾には大小さまざまな木箱が船倉の天井まで積まれ、ところどころにスズがやっと通れるほどの隙間があります。スズは体を細長く伸ばしたり、姿勢を低くしたり、木箱の上に乗ったり、降りたりして奥へと進みます。

すると木箱と木箱の間に布で包まれた箱が置かれている場所に着きました。そこはスズがこの航海中に任された大事な仕事をする場所です。

布で包まれた箱の上にスズがひょいっと飛び乗り、大きな目で辺りを見回してから隅に置いておいた小さな包みを見ました。「ん?何か変だな」と鼻で包みの匂いを嗅いでいます。

包みの中には昼間、明州の港町で楊おばさんに貰った万頭が入っていましたがどこにも見当たりません。

招鬼猫物語

招鬼猫物語第5話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第5話

遣唐大使の部屋の隣には賄いを作る賄い部屋があります。部屋の中では雑人達が乗員の夕食を作っている最中です。スズは鶏を捌き終えた調理台の下で腰を落とし、大きな目で野菜と鶏肉を炒めている雑人をジーッと見つめ上げ待つことにしました。

しばらくして雑人が気づき、「どうしたスズ、鶏肉が食べたいのか?」と問いかけます。スズは「うん。たべたい!」と返事するかのように「にゃん」と鳴きました。

「スズには夜の大事な仕事を頑張ってもらわないといけないからな」と雑人が言いながら、調理台にあった鶏肉をスズの前に置いてくれました。スズは嬉しそうに尻尾をユラユラと揺らせ、鶏肉を食べることにしました。

それを見ていた違う雑人が「スズに鶏肉を食べさせたら船長に怒られるぞ」と鶏肉を置いた雑人に注意します。やり取りを聞いていたスズは食べていた鶏肉を床に置いて、雑人達に気づかれないようそっと賄い部屋から出ていく事にしました。

船が進む東の方角はすっかり暗くなり、無数の星が見えるようになってきました。甲板にある三つ目の部屋には既にロウソクの明かりが灯り、人々が愉快に話す声がします。スズはその部屋を通り過ぎ船倉に下りる階段の前まで来ました。

招鬼猫物語

招鬼猫物語第4話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第4話

遣唐大使の部屋に入った鑑真一行は鑑真を中心に車座に座り、スズは部屋に置かれた暖をとるための火鉢の前で丸まり目を閉じています。
栄叡が「日本にやっとお連れすることができます」と安堵した顔で鑑真に言います。普照は目に涙を浮かべこの11年の苦難の道を思い出していました。

栄叡と普照は11年前の西暦733年、聖武天皇より僧に位を与える「伝戒師」を捜すよう命じられ、遣唐使船で唐に渡ることになりました。それから9年に及ぶ歳月をかけ西暦742年、僧に戒を授けることができる高僧の鑑真に出会います。翌年の夏、二人は鑑真を日本にお連れしようと明州の港まで来たのですが、弟子達の猛反対に合い船に乗ることができず日本への渡海は失敗に終わってしまいます。そして今回、やっと弟子たちを納得させ日本に行く船に乗ることができました。

部屋の中に差していた陽が弱くなり、床にあった影が壁まで伸びてきた頃、格子窓から美味しそうな匂いが漂ってきました。スズは「もう、こんな時間か」と鼻をピクピクさせ、目を開け、前足を伸ばし、大きなあくびをし、背伸びをしながら部屋を出ていきます。

招鬼猫物語

招鬼猫物語第3話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第3話

船は湾に浮かぶ最後の島を右手に見て外洋に出ようとしています。

「船を東に向けろ」と船長が大きな声で舵師に命じました。舵師が右手を上げます。それを見た舵取り六人が「ギッシ ギッシ」と舵を動かす綱を巻き上げていきます。船が少しずつ東を向き始め、船長の背中にあたっていた太陽が右の顔にあたるようになってきました。

王船長は眩しそうに手を額にあて「昔のように北に船を進めて陸沿いで行ければ安全なのだが・・・・・・」と、甲板に座る僧の一団に目をやりました。

そこには一人の高僧を囲むように二十数人の僧と二人の日本人僧が座しています。高僧の名前は鑑真(がんじん)、日本人僧は栄叡(ようえい)と普照(ふしょう)です。栄叡と普照は日本の僧に「戒律」を授ける伝戒師として鑑真を日本へお連れする途上です。

船長が「鑑真様を大使の部屋へご案内いたせ」と水夫長に命じました。甲板には三つの部屋があり、一番後ろにある部屋は高貴な方が使う遣唐大使の部屋になっています。スズは尻尾をピンと立て鑑真一行を部屋へ案内する水夫長の後を付いて行く事にしました。

招鬼猫物語

招鬼猫物語第2話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第2話

王船長が「碇を上げろー」と大きな声で水夫長に命じました。水夫達が船尾に走ります。スズの乗っている船には船尾に碇巻き上げ機が備え付けられています。

「ソーレ ソーレ」と水夫達が息を合わせ巻き上げ機を廻すと、人の腕の太さもある綱が「グル ギシッ グル ギシッ」と碇を巻き上げていきます。

水夫長はそれを見て「帆を張れー」と別の水夫達に命じました。水夫達が船の中央にある二本の帆柱に集まり、帆柱に巻かれていた綱を解きます。

「ソーレ ソーレ」とこちらでも水夫達が息を合わせ、帆柱の上部から垂れている綱を引き、竹で編んだ帆を上げていきます。船尾では人丈の倍もある碇が甲板に上がってきました。

船長が「出航 舵を取れ」と舵取りに命じました。船がゆっくり動き出します。

岸壁では大勢の人が動き出した船に手を振っています。「スズ、無事に帰っておいでよ」と万頭を売っている楊おばさんも手を振っています。スズは帆が張られた帆柱の上からそれに応えるように尻尾を振っています。甲板では日本に帰国できる留学生、学生僧達が安堵の表情で手を振っています。徐々に明州の港町が小さくなり波が船にぶつかる音、帆に風が当たる音が強くなってきました。