招鬼猫物語

招鬼猫物語第43話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第43話

港を出てから5日が経ちました。船は追い風を受け、帆をいっぱいにふくらませ順調に進んでいます。

船の前には日本まで案内するかのように何頭ものイルカが泳ぎ、飛び跳ね、舳先には体を半分乗り出した秀傑とスズの姿があります。

突然、「陸がみえるぞ、陸だ」と帆柱の上で見張りをしていた水夫が大声を上げました。

甲板にいる者達が舳先に集まり、「どこだ、どこだ」と目を凝らしながら探しています。「あそこ、あそこだ」と秀傑が船の進む少し左の水平線を指さしました。

皆が一斉にその方角を見ます、すると次々に「あそこだ、あそこに陸が見えるぞ」と声を上げ始めました。

甲板での騒ぎに気付いた普照が鑑真を伴って部屋から出ると、「日本だ、日本だ」と秀傑が興奮しながら駆け寄ってきます。

「日本に着いたのですか」と普照が近くにいた船長に尋ねると、「あの陸の形は阿児奈波嶋(あこなはじま、現在の沖縄)だ、あそこは水を補給する大きな島だ」と教えてくれました。

水平線に見えていた陸が徐々に大きくなると、濃い青色だった海はエメラルドグリーン色に変わり、海の底で色鮮やかな魚たちが泳いでいるのが分かるほど透き通った海になりました。


第1話~第42話はアーカイブ、カレンダーから検索してお読みできます。

招鬼猫物語

招鬼猫物語第42話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第42話

港が見えなくなり、甲板にいた者たちは思い思いの場所に座っています。

秀傑も帆柱近くに座り、日本に帰国する留学生にまだ見ぬ日本のことを聞いています。

船が湾に浮かぶ最後の島を通り過ぎる頃、「秀傑、秀傑はどこにいる」と普照の声が船尾の方から聞こえてきました。

秀傑が立ち上がり船尾へ歩き始めると、帆柱の上にいたスズが降りてきて後を追って付いていきます。

船尾にある部屋の扉前で普照が秀傑を捜しています。近づいてきた秀傑に気が付き、「鑑真様にご挨拶しなさい」と部屋に招き入れました。

部屋の中央に鑑真が座り、周りを弟子達が囲んでいます。「鑑真様」と普照が声を掛けました。

弟子の一人に手を取られ鑑真が立ち上がります。鑑真は優しい表情で「良い瓦を日本に伝えてください」と言い、秀傑の手を優しく握り締めました。

秀傑は感動と緊張で挨拶もできずに立ち尽くしています。

そこに、「チリン、チリン」と鈴を鳴らしてスズが部屋に入ってきて、鑑真の足元で「ニャー」と鳴きました。

鑑真がすぐに「大事な経典と私達を守ってくださいよ」と話しかけます。

すると、「ニャー」と返事をするので部屋中に笑い声がおきあがり、皆が優しい目でスズを見ています。


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