招鬼猫物語

招鬼猫物語第48話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第48話

スズが驚いた黒い物体は、秀傑が作った阿育王寺(あしょかおうじ)本堂の曼荼羅に描かれていた聖獣キルティムカを象った飾り瓦です。

秀傑がスズを抱き上げ背中を撫でてやります。興奮して大きくなっていた尻尾が徐々に小さくなり、落ち着き始めゴロゴロと喉を鳴らし始めました。

秀傑が慌てて船倉に降りていくのを見て、ついてきた普照が莚(むしろ)をめくります。ロウソクの灯が聖獣キルティムカの飾り瓦を浮かび上がらせます。

「これは瓦で作ったキルティムカじゃないか」と普照が秀傑に尋ねると、「はい、鴟尾と一緒に日本の寺院の屋根に飾りたいと思い作り、持ってきました」と答えました。

それから数日後、第一船は益救嶋(やくしま、現屋久島)にたどり着きます。

普照は鑑真様を日本にお連れできたことに安堵するも、先に出港した第二船がまだ着いていなことに心を曇らせています。

益救嶋(やくしま)に留まること10日、普照の元に大宰府に鑑真様をお連れするようにとの知らせが届き、第一船は第二船の到着を待たず出港することになりました。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第47話

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第47話

帆が折れ、大海原を漂流していた第二船の遣唐大使の部屋にも朝日が入り込み、床でぐったりとしている人々の顔を照らしています。

阿倍仲麻呂が顔に当たる陽の暖かさに気づき立ち上がり、部屋の外に出て行きます。甲板の光景に、35年振りの日本帰国の喜びが一瞬に絶望へと変わってしまいました。

帆を失った第二船は潮の流れに任されるままに西へ、西へと流されていきます。

帆に風を受け、順調に進む第一船に夕闇が迫ってきました。]

スズが船倉へ続く階段を下りていきます。そこには阿児奈波嶋(あこなはじま)で補給された水の入った甕、食料が所狭しと置かれています。

スズは船倉の奥に進み、いつもの経典が収められた木箱の上に座り、目を閉じ眠り始めました。

どのくらい時間が経ったでしょうか、波が船底を叩く音に混ざって微かに「きぃ、きぃ」とネズミが鳴く声がしてきました。

スズは立ち上がり、鳴き声のする莚(むしろ)の中に前足を出し入れしています。

すると、鋭い爪が引っ掛かり莚(むしろ)が破れ、大きな目を持った黒い物体が破れた穴からこちらを睨んでいます。驚いたスズは唸り、尻尾を太くして黒い物体の周りを行ったり来たりしています。

ただならぬ唸り声に気づいた秀傑が船倉に降りてきました。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第46話

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第46話

第一船の水補給が終わったのは第二船が出港した日のお昼頃でした。

急に厚く黒い雲が入江の上空に流れてきて辺り一面を覆うと、今度は風が吹き始め、穏やかな入り江に白波が立ち始めました。

「嵐がくるぞ、早く筏を船に上げろ」と船長が雑役達に向かって言っています。甲板では水夫達が右往左往と走り回り、縄であらゆる物を固定し始めました。

その頃、阿倍仲麻呂が乗った第二船は暴風雨の真っ只中でした。

船には次々と大きな波が襲い続け、上下左右へ大きく傾き、今にも海のもくずとなりそうです。

突然、真っ暗な空が光り、大きな衝撃音がすると、帆柱が根本から折れ荒波の中に飲まれてしまいました。

昨日まで荒れ狂っていた入江が嘘のように穏やかになり、朝日が入江に停泊している第一船を照らしています。

甲板に太陽に向かい手を合わせ、第二船の無事を祈る普照の姿があります。

「碇を上げろ、帆を張れ」と船長の声が響き渡りました。帆柱に竹で編んだ帆が引き上げられると、エメラルドグリーンの海に浮かんだ船がゆっくりと動き始めました。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第45話

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第45話

雑人達が船に繋がれた筏から、満杯になった水甕を次々と甲板に引き上げ、船倉へと運んでいます。

秀傑は雑人達の邪魔にならいように船倉に下り、暗闇に目が慣れると柱に縄で固定されている2体の鴟尾(しび)を見つけることができました。

近づき縄を引っ張り緩みがないか確認をしてから、周りを見渡すとそこには山のように経典が積んであります。それを見た秀傑は、この経典も鴟尾と同様に無事に日本に着きますようにと、心の中で祈ることにしました。

第一船に戻ると、こちらも島に水を汲みにいくため甲板から筏に水甕が次々と降ろされ始めています。

筏には海中に尻尾をゆらゆらと垂らしているスズの姿があります。

一瞬、水しぶきが上がり、尻尾と色鮮やかな魚が空中を舞い上がり、魚が筏の上に落ちてきました。スズは直ぐにそれを口に加え、誇らしげな表情で秀傑を見ています。

陽が水平線に沈むころ、水の補給が終わった第二船から阿倍仲麻呂が普照の元を訪れてきました。二人は赤く染まった海を見ながら、今までの苦難と日本の未来を語り合い、大宰府での再会を約束しました。

翌日の早朝、阿児奈波嶋の入江を出ていく第二船の姿があります。


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招鬼猫物語第44話

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第44話

船の底から「ゴツン、ゴツン」と鈍い音が響いてきました。

船長が帆柱の上にいる見張りの水夫に「珊瑚が船底を叩いているぞ、海面が濃く、青く見える方角に船を進めろ」と命じます。

水夫は目を凝らして海面を見ます、するとエメラルドグリーン色の海面に入江と続く濃く青い道が現れました。「前方の海にせり出した断崖絶壁を右に見えるよう進んでください、その奥に船を留めることができそうな入江があります」と伝えました。

無事に入江に入ると、そこには一緒に出航した阿倍仲麻呂が乗っている第二船が停泊していました。船は第二船の隣に碇を下ろし、水甕に水を補給するため筏も下ろされました。

「鑑真様も無事に阿児奈波嶋(あこなはじま)まで着いていてなによりだ」と第二船から阿倍仲麻呂の明るい声が聞こえてきました。

普照がその声に気づき、「ここまで来れば島伝いに船を進めば安全ですから、阿倍仲麻呂様の35年ぶりのご帰国も叶うでしょう」と答えました。

秀傑は橋桁で繋がれた第二船に渡り、船倉に収められた鴟尾(しび)の様子を見に行くことにしました。


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