社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。
第10話
普照の目が薄っすらと開き、ぼんやりと上を見上げています。そこには栄叡とスズの顔、そして倒れたはずの毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)の立っている姿がありました。
そこに激しい波を受けてできた板壁の隙間から朝日が差し込み、毘盧遮那仏が後光を出しているかのように部屋を照らしはじめます。その光景に部屋にいる全ての者たちが安堵の表情を浮かべ、毘盧遮那仏に手を合わせています。
弟子たちが鑑真の手を取り立ち上がり、部屋の扉を開け甲板へ出て行くと、普照も栄叡の手を借り立ち上がりそれにつづきます。部屋を出ると数時間前まで荒れ狂っていた海が、嘘のように雲一つない青い空の下で静かに朝日を浴び光り輝いています。
スズは王船長を探すため甲板をキョロキョロと見てまわりますが、見つけることができません。
それを見ていた水夫がスズを抱き上げ「船長は海に流された若いお坊さんを助けようとしたところ、大波が襲い一緒に海の中に流されてしまった………」と教えてくれました。
水夫の大粒の涙がスズの額にポつと落ち、スズの大きな目にも涙が溢れてきました。
「大変だ!水甕が全部割れているぞ」と大きな声が船倉から聞こえてきます。
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