招鬼猫物語

招鬼猫物語第15話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第15話

嵐が過ぎ去ってから3日目の朝を迎えました。遣唐大使の部屋で鑑真一行、栄叡、普照がお経を唱え、スズは普照の近くに座りお経を聞いています。

甲板では水夫長が帆柱の上で西の方角を見ている水夫に「まだ、陸は見えないか」と何度も声を掛けています。

亡くなった王船長から太陽、星の位置で方角を測り、操船する事を習っていた水夫長でしたが、3日経っても陸が見えて来ず焦っているようです。

それもそのはずです、船にはもう飲み水が一甕しか残っていませんでした。一甕ではどんなに節約しても1日で底をついてしまいます。

突然、「陸が前に見えるぞ」と水夫の大きな声が聞こえてきました。水夫長が確認するため船首に走ります。

甲板にいた者たちは船べりから顔を出して陸を探しています。「見えるぞ、陸だ、あそこだ」と歓声があがりはじめました。

その歓声を聞き、遣唐大使の部屋でお経を唱えていた鑑真一行、栄叡、普照がスズを抱いて部屋から出て来ました。そして遠くに見える陸を見つけ、安堵の表情で手を取り喜び合っています。

普照に抱かれていたスズがいつの間にか帆柱の一番上まで登り、徐々に近づいてくる陸をじーっと見ています。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第14話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第14話

ネズミがすきを見て逃げようとしました。スズは素早く前足で捕まえ、しばらくもてあそんでから口にくわえて、再び普照の足元に持ってきました。

それを見た普照がスズを抱き上げます。するとネズミがそのすきに板壁に空いた穴から逃げていってしまいました。

スズが「どうして逃がすんだ、大事な仕事をしたじゃないか、王船長なら褒めてくれるのに」と大きな目で訴えています。

スズは大事な荷物をネズミから守るために王船長に飼われていました。そしてこの航海では日本に運ぶ経典をネズミから守るよう王船長に命じられていたのです。

ネズミを逃がした普照が「ネズミを捕まえてくれてありがとう」と言います。スズは「何がありがとうだ、逃げたじゃないか」という顔をしました。

普照が「そんなに睨むな、与えられた仕事は経典を守ることだろ」と問いかけます。そして「もう日本に行かないんだ、余分な殺生はするな」と言いました。

それを見ていた鑑真と弟子たちがお経を唱え始めました。ロウソクの灯りが揺らめき毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)を照らしています。そのお顔は優しく穏やかで、慈悲深くスズを見ています。

すると普照を睨んでいたスズの目が、いつもの大きく可愛い目となっていきました。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第13話

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第13話

乾かした経典が納められた木箱は、嵐で割れてしまった水甕のあった場所に置かれていました。スズはその木箱の上にひょいっと飛び乗り、大きな目で周りを見回します。

甲板に上がる階段近くには竹籠の中で鶏が寝ています。その奥には粟、米が入った袋が湿った状態で積まれ、破れた袋から床に粟、米がこぼれています。そして、船の中央から船尾は様々な箱が散乱したままです。

しばらくの間、スズが後ろ足を体の下にしまい前足を突き出した状態で座っていると、暗闇にかすかに「きぃ、きぃ」と何かが鳴く声がしてきました。

スズは大きな耳、大きな目を音のする方に向けてから静かに立ち上がり、箱の上から音もたてず床に降りて行きました。

すると突然、目にもとまらない速さで粟、米がこぼれている床に向かって飛びました。「ぎぃ、ぎぃ」と小さな悲鳴のような鳴き声が暗闇に響きます。

遣唐大使の部屋にスズが何かを口にくわえて入ってきて、普照の足元でくわえていた物を落としました。その落とした物は一匹のまだかろうじて生きているネズミです。

スズは「どうだ捕まえたぞ、大事な仕事をしたぞ」と自慢するような顔で普照を見上げています。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第12話

社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。

第12話

船倉から鑑真の弟子たちが、濡れた布に包まれたいくつもの木箱を持って、甲板に上がって来ました。その箱の一つは、スズがこの航海中に大事な仕事を任された場所に置かれていた箱です。

鑑真が見守るなか、普照が濡れている布を解き、栄叡が木箱を開けます。

弟子の一人が中を見て「あー、やはり濡れてしまっている」とつぶやきました。鑑真が「乾かせば大丈夫、。乾かしましょう」と木箱から出して乾かすよう弟子たちに促しました。

木箱の中には60巻に及ぶ経典「四分律(しぶんりつ)」が入っており、四分律には仏僧が日常生活で守らなければならない戒律(男性僧は250の戒律、尼僧は348の戒律)が書かれています。

鑑真はこの四分律を日本の僧に伝え、僧となるための受戒制度を設けることを考えていました

弟子たちが木箱から経典を一巻きずつ取り出し、丁寧に広げ、太陽の光と風で濡れていた経典を乾かしていきます。

全ての経典を乾かし終え、木箱に納め、船倉へ戻すと、もう陽が沈む頃になっていました。

それを見ていたスズが暗くなった船倉にゆっくりと下りて行きます。


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招鬼猫物語

招鬼猫物語第11話

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第11話

スズを抱いていた水夫がスズを床に降ろして急いで船倉へ向かうと、船倉は粉々に割れた水甕の破片で足の踏み場もない状態になっていました。

水甕には最初の経由地に着くまでの飲み水が入っていましたが、全て海へ流れてしまったようです。

後から来た水夫長がその光景を見て、「日本に向かうのは無理だ、明州に戻るしかないな」と言っています。

水夫が「今、どこにいるのでしょうか?」と水夫長に尋ねると、「まだ、出港して一日しか経ってないから、陸からはそんなに離れていないだろう」と答えました。

水夫長が遣唐大使の部屋に向かい栄叡と普照に「船長が海に流され、飲み水が無くなってしまっては明州に戻るしかない」と伝えました。

それを聞いた栄叡は天を仰ぎ、普照は床に膝を付いたまま動くことができません。鑑真が二人に近づき「これも仏様の思し召し、明州に戻りもう一度準備しますぞ」と声を掛けます。

部屋の外で水夫長が水夫、舵取り達に「明州に戻るぞ、船を西に向けろ」と命じています。帆柱に帆が上がり、しばらくすると船がゆっくりと西に向き動き始めました。

その帆柱の上でスズが海面をいつまでも見ています。


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