社長が毎週月曜日に投稿している招鬼猫を題材にした物語です。
第29話
スズが栄叡、普照と別れ、阿育王寺(あしょかおうじ)の麓で瓦作りをしている周親子の元に来て、8年の歳月が経ちました。
瓦作りの朝は早く、スズは夜が明ける前から様々な場所を見て回るのが大好きです。
小高い山の斜面に造られた穴窯から、汗を噴き出した男達が体中を真っ黒にして瓦を運び出し、斜面の下に広がった場所では、女達が粘土を足で踏んで練っています。
その隣では練られた粘土が1尺の幅で人丈ほどの高さに積まれ、二人の男が藁を編んだ紐を使い、7分ほどの厚さの板状に削ぎ切り、近くの小屋の中に運んでいます。
小屋の中では秀傑が運びこまれた板状の粘土を使って、器用に3尺ほどの高さがある沓(くつ)のような形をしたものを一心不乱に作っているところです。
「秀傑、阿育王寺(あしょかおうじ)の鴟尾(しび)の進捗具合はどうだ」と言いながら親父の周が小屋の中に入って来ました。
すると秀傑の近くで腰を落としているスズを見て、思い出したかのように昨日、市場で聞いた話を秀傑に話し始めました。
それは5年前に5回目の日本渡航を試みてまたもや暴風に合い、南方の海南まで流された鑑真達がまた日本へ向かうという噂話でした。
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